朝鮮民主主義研究センター

2009年10月12日

金ジョンウン後継資料が示す体制の行きづまり

北朝鮮の後継者問題に関する内部文書を毎日新聞が入手し、公開した。「尊敬する金正雲大将同志の偉大性教養資料」というタイトルで、金ジョンウンが後継者としてふさわしいことを説明するものだ。「偉大なる領導者、金正日同志の領導にしたがって、先軍革命偉業の代を、純潔に引き継いでいく真のイルクンになるにはどうすれば良いか?」という問いかけがあることから判断して、イルクンと呼ばれる朝鮮労働党の専従者を対象にしたものだろう。

この資料は三つの部分から構成されている。第一部は、金ジョンウンがいかに偉大で、後継者にふさわしいかを述べ、権力の継承にあたってのイルクンの任務を示す。第二部は金ジョンウンを賞賛する「パルコルム」という歌の解説。第三部は「命題解説」として金正日の言葉を引用しながら第一部で示した見解を詳しく説明している。

金ジョンウンについて特に強調されているのは軍事の才能だ。彼は2006年12月24日に何件かの作戦地図を披露し、軍の幹部を驚嘆させたのだという。「人工地球衛星資料とGPS受信機の座標を利用した新たな地図」ということだ。これがどうやら最大の業績らしい。しかしGPSを使った地図なら今ではGoogleマップなどで誰でも見れるようになっており、少しも新しくはない。もしかしたら金ジョンウンはちょっとGoogleマップを使ってみせただけなのではないか。

後継者問題の重要性も強調される。

第2国際党(注・第2インターナショナル)において貢献したベルンシュタインとカウツキーのような機会主義者たちは、エンゲルスの代が転換する時期を契機にマルクス主義に背反して修正主義の道に転がり落ち、レーニンの偉業を継承したスターリンが生きている時には、かつてのソ連は万事がうまくいっていたが、スターリンの死後は、権力の座についたフルシチョフによって修正主義が台頭し、社会主義建設において混乱が醸成され、その後、社会主義背信者であるゴルバチョフによってかつてのソ連をはじめとする東欧社会主義国で社会主義の崩壊という惨状がもたらされた。

典型的なスターリン主義者の見解だ。北朝鮮はマルクス・レーニン主義などとっくに捨てて主体思想と先軍思想に純化したと思っていたのだが、意外とそうでもなかったようだ。大粛清で数百万人を殺し、第二次世界大戦で数千万人を犠牲にしたスターリンをいまだに肯定しているというのは驚きだ。しかし中国で改革開放路線を主導したトウ小平に全く言及していないところに弱みを見るべきかもしれない。

イルクンの任務については「イルクンたちは党と人民に対して金正雲大将トンムの忠実性と献身的服務精神に学ぶべきです」という金正日の言葉が引用されている。やはり金ジョンウンについて言えるのは父親に対して忠実なことだけなのだろう。

全体として無内容な資料ではある。南北関係や米朝関係についての言及は全くなく、飢餓や脱北者の大量発生によって荒廃した北朝鮮社会が金ジョンウンによって建て直されるという希望が示されているわけでもない。現在ある問題をまったく無視して「継承」だけを強調しても、受け取る側は白けるだけだ。

「金ジョンウン後継」はまだ対外的には発表されていない。後継者論議は中断されている。李英和氏の新著『暴走国家・北朝鮮の狙い』(PHP)は、北朝鮮の権力層内部で軍を基盤とした先軍派と張成沢をリーダーとする改革派が権力闘争を繰り広げていることを指摘している。金ジョンウンをかついでいるのは先軍派だが、世襲に難色を示す中国の出方次第では改革派が巻き返す可能性もあるという。たしかに後継者論議の中断と前後して対外的な強硬路線も一段落し、金正日が条件付きで六ヶ国協議への復帰を表明する状況になっている。

後継者の候補は金ジョンウンしかいないが、金ジョンウンをかつぐ先軍派は硬直したイデオロギーしか持っていない。つまり北朝鮮の体制は「金正日後」の状況に対応できない。毎日新聞が公開した資料から分かるのは、やはり北朝鮮の体制は終わりが近いということだ。

今週の北朝鮮(2009/10/03-2009/10/09)
投稿者 kazhik : 2009年10月12日 13:03
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