太田昌国氏と蓮池透氏の対談が収められている『拉致対論』(太田出版)を読んだ。
太田氏は2003年の著書『「拉致」異論』(太田出版)で蓮池氏を批判していた。当時、蓮池透氏は拉致被害者家族会の事務局長として対北朝鮮強硬派的な発言を繰り返していた。しかしその後、蓮池氏の発言は次第に変わり、現在では日朝国交正常化を推進する勢力が主催するイベントに出席するようになっている。今年の著書『拉致 左右の垣根を超えた闘いへ』(かもがわ出版)にもそういう立場が現れている。太田氏との対談も蓮池氏の変化を受けて企画されたものだ。
その結果、二人のあいだに大きな対立点はなくなったようだ。太田氏は救う会の右翼性を批判し、日朝の問題は日本が植民地支配の過去を清算し北朝鮮が拉致問題を解決するという方向でしか進展しない、と主張する。それに応じ、蓮池氏は救う会の影響で家族会まで右翼化してしまったと振り返り、経済制裁を強めるばかりでなく交渉すべきだ、と語っている。
『「拉致」異論』の書評を書いたとき、私は太田氏が強制収容所や難民などといった問題に十分目を向けていないことに不満を感じた。北朝鮮の体制について批判的な認識を持っているにもかかわらず、太田氏が最終的に政策として主張する内容は朝鮮総連が推進するものとほとんど変わらなくなっている。制裁か対話か、という選択肢の中で思考が回っているだけのように見える。今回の対談について感じることも同じだ。
「左右の垣根を超えた闘い」を呼びかける透氏も、実際には日朝国交正常化を推進する勢力に近づく以外なくなっている。日朝双方の体制に批判的な太田氏には第三の道を示すこともできるはずなのだが、そうはならなかったようだ。
しかし、少々がっかりさせられた半面、本書は一つの可能性に気づかせてもくれた。この対談の影の主役である蓮池薫さんのことだ。透氏はこう語っている。
弟は、自分の頭の中に何があるのかということは公けにはしないと断言しています。「これは俺の対北政策だ」と言うんです。「胸の内を北朝鮮に見せたら、俺達の価値がなくなる」と。情報を公けにしないというのも同じことです。情報を公けにしたら、その情報はまったく価値がなくなってしまう、と。そうは言うものの、弟と話をしていると、彼が日本と北朝鮮の両方をよく知っているということが分かります。ものすごいバランス感覚を持っていて、ものごとを複眼的に見ることができる稀有な存在だと思います。そして、常に論理的に思考する人間です。ああいう生活をしてきたせいかもしれませんが、常に事態を先回りして考えて、頭の中で想定問答をやって、その結果を口に出すということをしているようです。(55-56ページ)
この複眼的な思考をぜひ公の場で披露してほしいものだ。それは硬直した日本の世論を変え、日本政府の北朝鮮政策を変えるだけの力を持つかもしれない。
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