朝鮮民主主義研究センター

2009年8月 9日

ビル・クリントン訪朝と二記者の解放

今年3月に中朝国境で拘束されたローラ・リンさんとユナ・リーさんが解放された。ビル・クリントンが8月4日に北朝鮮を訪問して金正日と会談し、二人を連れて帰った。まずは二人の解放を素直に喜びたい。

二人はアメリカのケーブルテレビCurrent TVの記者で、取材活動中に朝鮮人民軍に拘束され、6月に不法国境出入罪と朝鮮民族敵対罪で労働教化12年の判決を受けた。アメリカ政府は二人の釈放を求めたが、北朝鮮政府はミサイル実験や核実験を行い、六ヶ国協議からの脱退を宣言するなどして国際社会との関係を緊張させたため、交渉は進まなかった。アメリカをはじめとする関係各国は北朝鮮に対して六ヶ国協議への復帰を要求し、北朝鮮がそれを拒否する状況が続いていた。米朝交渉は六ヶ国協議の枠内で行う、というのがアメリカ政府の公式な立場だったため、二人の記者を解放するための交渉は水面下で行われることになった。

そこで登場したのが元大統領のビル・クリントン。1994年に米朝枠組み合意が成立したときの大統領であり、現職の国務長官であるヒラリー・クリントンの夫だが、現在は公職についていない。オバマ政権にとっては二人の記者を解放させるための最高の人材だった。

1990年代の核危機の際には米朝間の緊張がもっとも高まったところでカーター元大統領が訪朝し、劇的な緊張緩和をもたらした。今回のクリントン訪朝は誰もがその再現だと思うだろう。当時大統領だったクリントンが今度はカーターの役を引き受けたようにも見える。しかし、カーターの訪朝とクリントンの訪朝は本質的に違う。カーターは核問題について話し合い、いくらかの成果を得たのに対し、クリントンは核問題について何の成果も得ていない。目的は二人の記者の解放であり、それを果たしただけだ。オバマ政権も今回のクリントン訪朝を人道問題に関わるものと位置づけ、核問題との関連を否定している。北朝鮮に対しては依然として六ヶ国協議への復帰を第一ステップとして要求しつづけている。局面はまったく変わっていない。銀行強盗が人質を解放したが、依然として銀行に立てこもり続けている状況と似たようなものか。

しかしクリントン訪朝のインパクトは非常に大きく、結果的にいくつかの問題が忘れ去られているようだ。第一の問題は二人の記者と行動を共にしたキム・ソンチョルさんだ。二人の記者は脱北者問題の取材に関してドゥリハナ宣教会にアドバイスを求めた。ドゥリハナ宣教会のチョン・キウォン氏は中国在住の韓国人であるキム・ソンチョルさんをガイドとして紹介した。彼は取材に同行し、二人が拘束された現場からは逃れたが、その後中国当局に拘束された。彼の消息についてはその後の報道がない。現在も拘束されたままなのではないか。

第二の問題は二人の罪名である「朝鮮民族敵対罪」だ。二人は脱北者の問題を取材中に拘束された。国境を越えて北朝鮮に入り、運悪く拘束されたようだ。そこで不法国境出入罪と朝鮮民族敵対罪に問われることになった。後者は脱北者問題を取材していたことが主な理由だ。取材の方法として不法入国が妥当だったかどうかは詳細が事実がわからないと何とも言えないが、脱北者問題を伝えようとしただけで有罪というのは明らかに不当だ。クリントンはこの不当性についてそれほど強く抗議しなかったようで、二人は無罪によってではなく特赦によって解放されることになった。北朝鮮側は「クリントンは金正日総書記に、2人の米国人記者が朝鮮に不法入国し反共和国敵対行為をしたことについて深甚なる謝意を表し、人道主義的見地から彼女らを寛大に赦して帰国させてほしいという米国政府の切なる要請を丁重に伝達した」などと書いている。二人の解放を最優先させるためのやむをえない妥協かもしれないが、不満は残る。

二人の市民のために元大統領が汗をかいたということ自体は素晴らしい。韓国の現代峨山の職員が四ヶ月以上も抑留されたままになっていることと比べずにはいられない。しかし、これが前例になってしまうのは好ましくない。日本の場合でも、北朝鮮に残った拉致被害者の家族を帰国させるため、小泉純一郎が再度訪朝し、身代金代わりに食糧支援を約束してしまったことがあった。市民を不当に拘束する国家の要求をむやみに受け入れるべきではない。ましてや今回の件を関係改善の第一歩とするのは論外であろう。

ともあれ、ローラ・リンさんとユナ・リーさんには、ぜひ今回の経験をメディアで詳しく報告してほしいものだ。世論が忘れがちになっている脱北者問題にもう一度注目を集め、問題が終わっていないことを示してほしい。

今週の北朝鮮(2009/08/01-2009/08/07)
投稿者 kazhik : 2009年8月 9日 07:09
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