アンドレイ・ランコフ氏が北朝鮮の未来について四つのシナリオを検討している。第一は中国式市場改革、第二は吸収統一、第三は親中政権の樹立、第四は長期的な混乱だ。彼によれば、北朝鮮の政権が第一のシナリオを選択した場合、その結果は「高度経済成長よりも政治の混乱と政権の崩壊」。第二のシナリオは「分断の否定的な結果を一番完璧かつ早く乗り越える」。第三のシナリオは北朝鮮経済を改善するかもしれないが、分断を永久化し、民主化を遅らせる。第四のシナリオは結局は吸収統一か親中政権に行き着く。
このうち、中国式市場改革と親中政権の樹立は、とくに区別する必要はないように思う。現在の金正日政権が中国式の経済改革を実施することはまずない。開城や新義州が限定的に開放されたが、北朝鮮経済全体を改革するような措置はこれまで行われたことがないし、今後も行われないだろう。政権が変わらなければ改革は始まらない。つまり、親中政権として存続するか、韓国に吸収されるか、という二者択一になる。
親中政権の可能性については青木直人氏も何度か指摘したことがある。しかし、私にはこの可能性はほとんどないように感じる。中国式の改革開放政策は金日成や金正日がつくりあげてきたイデオロギーと両立しないからだ。北朝鮮の支配層にはトウ小平のような指導者はいないので、改革開放は現在の支配層の外からの押しつけになるだろう。つまり、改革開放は朝鮮民主主義人民共和国という体制の正統性を否定しなければ始まらないのだ。改革開放は吸収統一の第一段階でしかありえない。
ランコフ氏はもう一つのシナリオを検討するのを忘れたようだ。現状維持である。周辺国は誰も北朝鮮の体制崩壊を望んでいない。安倍政権や初期のブッシュ政権でさえせいぜい経済制裁どまりで、体制崩壊をめざす政策は取らなかった。李明博政権は10年続いた太陽政策を安楽死させつつあるが、それに代わって朝鮮半島の情勢を決める政策を持っているわけではない。金正日が生きているかぎり、あと10年ほどは現状のまま、というのが最もありうるシナリオだ。
ランコフ氏は吸収統一へ向かう道として次のような可能性を指摘している。
1990年代から北朝鮮で政権の統制力が弱まってきている。韓国を含めた外部世界の情報が北朝鮮の内部で全国的に広がり、政権に対する恐怖心は徐々に薄れている。その結果、規模が小さな事件が体制に打撃を与える潜在力が生じたのだ。東欧の民主化運動の歴史だけでなく世界の歴史を見れば、地方都市の市場やサッカー競技場から始まった小さな騷動が、基盤が弱まった体制に致命的な打撃を加える可能性があるということは明らかだ。
これが実際に起こり、東欧革命が北朝鮮で再現したらどんなによいか。たしかに現体制の力が弱まっているのは確かであり、市民が権力者に抗議する動きも伝えられるようになってきている。可能性はゼロではないと信じたい。
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