朝鮮民主主義研究センター

食糧危機の根本原因は独裁体制(2008年5月24日)
新興成金の代弁者による食糧危機論(2008年5月17日)
食糧危機は政治的に取り引きされつつある(2008年5月11日)
再び迫ってきた食糧危機(2008年5月 3日)

2008年5月24日

食糧危機の根本原因は独裁体制

グッドフレンズのニューズレターが朝鮮労働党官僚の興味深い言葉を伝えている

わが政府は人民が餓死するだろうという事実を理解している。人民の死は体制を崩壊させないだろう、というのが我々の立場だ。昨年、洪水の被害を公表すべきだという主張がなされた。しかし公表しても議論を巻き起こしただけだった。公表することで問題の解決が導かれると期待されたが、何も起こらなかった。公表を主張した者は追い払われた。現在の環境はまったく違う。誰もはっきりものを言おうとしない。かつては南朝鮮に非公式に援助を求めようとする者もいたが、現在はいない。

昨年夏の水害の際、北朝鮮のメディアは被害の実態を写真入りで報道した。北朝鮮では異例なことだった。しかし、現在の北朝鮮政府では昨年夏の対応は失敗だったと評価されているようだ。実際、北朝鮮のメディアは現在進行中の食糧危機については伝えていない。

アマルティア・センによれば、民主主義国家では飢饉は起こらない。初期段階でメディアが報道し、人民が政府に対応を促すからだ。この理論からみれば、報道したのが間違いだった、という北朝鮮政府の了解は180度逆だ。報道したのが間違いだったのではなく、報道しただけで終わったのが間違いだったのだ。報道自体も北朝鮮の公式メディアによるものだけで、外国メディアの取材が許されることはなかった。緊急の対応を行い、被災地以外の人々や外国に対して援助を求め、再発防止策を検討して実施する。報道はそんなプロセスのきっかけとなるべきものなのに、北朝鮮の現在の体制ではそうはならなかった。

アメリカに続き、韓国も食糧援助を行う方向に動いている。だが、慢性化した援助は食糧危機の慢性化をもたらすだけだ。民主化だけが問題を根本的に解決するだろう。

今週の北朝鮮(2008/05/17-2008/05/23)
投稿者 kazhik : 14:50 | トラックバック

2008年5月17日

新興成金の代弁者による食糧危機論

河信基氏がブログで「北朝鮮の食糧危機が悪化しない理由」という記事を書いている。市場経済の発展、外国からの援助、軍の備蓄食糧という三つの要因があるからだという。

第一の市場経済に関する彼の言葉はこうだ。

 ずばり言えば、食糧不足は市場の需給関係に影響を及ぼして価格高騰を招き、貧困層が困るということで、特権層、富裕層にはそれほど影響しないということである。
 単純計算して食糧自給率は80%台であるから、国民の20%、500万人台の人々が苦しむ計算である。

500万人の貧困層が飢えても大した問題ではない、というこの姿勢には驚かざるをえない。どんな飢饉であれ、まっさきに苦しむのは常に貧困層だということをこの人物は知らないのだろうか。それならば1990年代の飢饉も些細なことになってしまう。もっとも多い見積りでも350万人しか死んでいないのだからだ。

数年前の著書で、彼は市場経済の発展により新興成金が登場したことを肯定的に捉えていた。もともと彼は新興成金の視点でしか北朝鮮経済を捉えていなかったと言える。しかし、貧乏人は死んでもかまわない、と言わんばかりの発言までするとは思わなかった。

第三の軍の備蓄食糧に関しては、彼は中央日報の記事にリンクを張っている。韓国からの援助は軍の備蓄に回せ、という金正日の指示を伝えたものだ。記事を素直に読む者は「援助食糧は本来の目的から外れたところに転用されている」と考えるだろう。ところが彼の頭の中では全てが逆さまになる。備蓄されているのだから飢饉対策の最後の選択肢として使える、というのだ。軍が援助食糧を横取りしたのは本当の飢饉に備えるためだった、とでも思っているのだろうか。

外国からの援助はたしかに食糧危機を緩和するだろう。軍が横取りするとしても、それがさらに横流しされて市場に出回れば食糧価格は下がる。だが、当面の危機を援助によって脱することは、構造的な問題の解決をむしろ妨げることになりかねない。

河信基氏は食糧危機の原因には何の関心もないようだ。「洪水といった内的要因や国際穀物価格暴騰で北朝鮮の慢性的な食糧危機が深刻化しているのは、報道された通りであろう」とあっさり書いている。洪水が起こったという報道などないし、北朝鮮の食糧価格の上昇は世界的な上昇より急カーブなのは何故かが問題なのだが、新興成金の代弁者にすぎない彼にはどうでもいいことなのだろう。「日本も、制裁措置とは無関係に人道的支援に踏み切るべきである」「事は日本の人道主義精神や困った隣人への思いやりの心、良心や品格に関わる」という最後の主張もただ空虚なだけだ。

今週の北朝鮮(2008/05/10-2008/05/16)
投稿者 kazhik : 11:14 | トラックバック

2008年5月11日

食糧危機は政治的に取り引きされつつある

北朝鮮の食糧危機に対し、アメリカの国家安全保障会議局長を団長とする代表団が5月5日から8日にかけて北朝鮮を訪問した。朝鮮通信は食糧援助に関して「具体的でよい交渉」が行われたと報じたことからみて、援助は実際に行われそうだ。韓国政府の関係者はアメリカ政府が50万トンの食糧を支援しようとしていると語った

北朝鮮が核施設の稼働記録をアメリカ側に渡したことと連動していることは誰の目にも明らかだ。アメリカの援助が6ヵ国協議の場で発表される、という報道の通りになった場合、日本や韓国も追随して食糧援助を発表することになるだろう。食糧援助が必要だから援助するのではなく、核問題が進展したから援助するのだ。人道的な援助ではなく政治的な援助だと考える以外ない。

経緯はどうであれ食糧が十分に行き渡ればよい、と言うわけにはいかない。今回の食糧危機は自然災害ではなく、何らかの人為的要因によって引き起こされている。その原因を解明せずに援助を実施してしまうと構造的な問題が解決されなくなってしまう恐れがある。このような援助は人道的どころかその対極にあるものだ。

今週の北朝鮮(2008/05/03-2008/05/09)
投稿者 kazhik : 15:52 | トラックバック

2008年5月 3日

再び迫ってきた食糧危機

北朝鮮の食糧危機に関し、4月30日にアメリカのピーターソン国際経済研究所がセミナーを開いた。そこでマーカス・ノーランド研究員が「あの国は10年前の飢饉の終わり以降において最も危険な状況にある」という見解を示した。近年の食糧供給は需要を上回っていたが、その差分が今はなくなっていること、そして食糧価格がインフレ率や国際的な食糧価格よりも急激に上昇していることが指摘されている。

ニュースリリースに付けられているグラフを見ると、昨年の夏頃から食糧価格が急上昇しはじめたことが分かる。韓国でNGO「グッドフレンズ」が飢饉の再来を警告し、ニュースサイトのデイリーNKが批判していた頃だ。デイリーNKは食糧価格が安定しているという事実を指摘してグッドフレンズの見解を否定しており、私はその批判が正しいと考えた。しかし現在、食糧価格が高騰していることは誰の目にも明らかになった。今回はデイリーNKも「食糧の価格は上がったが, 飢え死にするほどではない」という記事を掲載する程度で、状況の悪化そのものは否定していない。

先週の報道によれば、北朝鮮は資金があっても食糧を輸入できない状況に陥っている。中国が政策的に食糧輸出を制限しているためだ。これが今回の危機を引き起こした直接的な原因だろう。しかし昨年からの北朝鮮の市場統制政策が影響している可能性もある。いずれにせよ危機の原因は人為的なものであり、本格的な飢饉を防ぐことは今からでも十分可能だ。周辺諸国が六ヵ国協議のような枠組を作って(あるいは六ヵ国協議そのものを使って)対応するのが望ましい。

今週の北朝鮮(2008/04/26-2008/05/02)
投稿者 kazhik : 20:34 | トラックバック