朝鮮民主主義研究センター

2008年3月23日

完全統制区域出身者の手記が出版

3月17日、北朝鮮の政治犯収容所で生まれ育った申東赫氏の手記『収容所に生まれた僕は愛を知らない』(KKベストセラーズ)が出版された。同じ日に著者の出版記念講演会も行われた。

申氏は1982年、政治犯収容所の中でも完全統制区域と呼ばれるところで生まれた。一度入ったら出所する可能性はないとされている区域だ。彼の証言によれば、完全統制区域には模範的な収容者同士を結婚させる「表彰結婚」という制度がある。結婚する二人を指定するのは保衛指導員であり、当人の希望はもちろん考慮されない。しかし収容者たちは表彰結婚を夢見て必死に働くという。表彰結婚によって子どもが生まれた場合、その子どもは生まれながらにして囚人となる。

表彰結婚で子どもが生まれても親が愛情を注ぐことはなく、子どもも親に対して特別な感情はないという。手記のタイトルにもなっている通りだ。しかし、この点はあまり強調しすぎると誤解が生じるようにも思う。申氏の母と兄は1996年に脱出を試みて捕まり、公開処刑されている。彼は最前列で母と兄の処刑を見なければならなかった。そのときの状況について、彼は以前のインタビュー記事では「母と兄が死ぬ姿を見た時も、悔しい、悲しいという感情はなかった」と証言していた。今回の手記では同じ公開処刑について「どうにも凝視するのが辛かった。自分の母が絞首刑に、兄が銃殺刑にかけられようとしているのだ。平気で見ていられる家族がいるだろうか」と書かれており、ややニュアンスが違っている。北朝鮮を脱出してから日が経つにつれ、少しずつ人間性を回復しているのだろう。まったく「愛を知らない」人間が育ったわけではない。完全統制区域は人間性を心の奥底に沈めなければ生きていけない場所だったのだ。

表彰結婚制度は、北朝鮮の収容所がナチスやソ連の収容所とも本質的に違っていることを示している。囚人同士が結婚する制度など前代未聞であり、その子どもは生まれながらにして囚人となるというのも近代社会の原則と相容れない。囚人たちは一種の奴隷階級だと考えたほうが分かりやすい。

申氏の手記は、完全統制区域の異様で苛酷な実態を明らかにしているだけではない。一筋の希望を見せてくれてもいる。

2004年、彼が働いていた工場に新しい囚人が配置された。平壌で官僚として働いていた朴勇哲氏で、申氏と親しくなると「北朝鮮社会は、罪のない人を捕まえるところだ」「UN(国連)でも問題にしていて、世界中が関心をもっているから、早いうちに管理所(収容所)はなくなるだろう」と語ったという。この人物の影響で申氏は脱出を考えるようになり、二人で脱出を試みた。朴氏は鉄条網を抜けることができなかったが、申氏は成功し、朴氏に教えられた通り中国へと向かった。北朝鮮の人権状況を批判する国際社会の声が完全統制区域の中にも届き、人の心を変えたということだ。金正日政権が国際社会の声を無視しつづけているとしても、人権状況を批判することは無駄ではない。

今週の北朝鮮(2008/03/15-2008/03/21)
投稿者 kazhik : 2008年3月23日 17:50
コメント&トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://asiavoice.net/mt/mt-tb.cgi/288

コメントする
(必須)


(必須:公開したくない場合は下のURLも入力してください)





名前、アドレスを登録しますか?