朝鮮民主主義研究センター

当局による市場統制に対して一万人の女性が抗議(2008年3月30日)
完全統制区域出身者の手記が出版(2008年3月23日)
変わらない人権状況、変わる政治状況(2008年3月16日)
韓米の弱々しい政策協調(2008年3月 9日)
中国政府がUNHCRに脱北者の亡命申請受付を中止するよう要請?(2008年3月 2日)

2008年3月30日

当局による市場統制に対して一万人の女性が抗議

グッドフレンズのニューズレターによれば、3月4日、北朝鮮当局による市場統制に対して一万人ほどの女性たちが集団で抗議を行った。

昨年から北朝鮮当局は市場に対する統制を強めており、市場で商売できるのを50歳以上の女性に制限しようとしている。しかし女性たちが応じないため、3月3日、制限に引っかかる女性たちの販売台を強制的に撤去した。抗議はそれに対して翌日起こったものだ。女性たちは「お前たちだけ食べているのか。われわれも食べていけるよう商売をできるようにしろ。そうでなければ配給を出せ」などと叫んだ。清津市関係者は「これを鎮圧すれば本当の暴動が起きる。女性たちがけがでもすれば労働者たちが立ち上がり大変なことになる」と話した。

市場統制をめぐる不満や散発的な抗議はこれまでも伝わってきていた。しかし一万人が抗議したというのは驚くべきニュースだ。自宅で家族に対して不満を漏らしただけで逮捕されることがあるという北朝鮮で、白昼堂々と集団で抗議が起こるとは。しかも当局者が鎮圧できなかったとは!

この事件は明らかにこれだけでは終わらないだろう。金正日体制の認識では、市場経済の拡大は資本主義化を意味する。女性たちの抗議に対して一時的に譲歩することはあっても、それによって政策全体を転換することはできない。しかし市場経済を抑制して従来の配給制度を復活させることもできない。中国や韓国との経済関係の発展をテコにして北朝鮮経済を発展させていこうとするなら、結局は経済改革を実施して市場経済を認めていかなければならないのだ。金正日体制はジレンマに陥っている。

今回の抗議に参加した女性たちは政治犯として収容所に送られることになるかもしれない。しかし彼女たちの行動は北朝鮮の新しい歴史をスタートさせるものだ。国家権力から自立したジャーナリストによるメディアとして昨年末に『リムジンガン』が創刊されたことにつづき、今度は一般市民が国家権力から自立して動きはじめた。北朝鮮社会は想像以上に急速に変化してきている。さらに大きな変化が起こることも期待できるようになってきた。

今週の北朝鮮(2008/03/22-2008/03/28)
投稿者 kazhik : 14:23 | トラックバック

2008年3月23日

完全統制区域出身者の手記が出版

3月17日、北朝鮮の政治犯収容所で生まれ育った申東赫氏の手記『収容所に生まれた僕は愛を知らない』(KKベストセラーズ)が出版された。同じ日に著者の出版記念講演会も行われた。

申氏は1982年、政治犯収容所の中でも完全統制区域と呼ばれるところで生まれた。一度入ったら出所する可能性はないとされている区域だ。彼の証言によれば、完全統制区域には模範的な収容者同士を結婚させる「表彰結婚」という制度がある。結婚する二人を指定するのは保衛指導員であり、当人の希望はもちろん考慮されない。しかし収容者たちは表彰結婚を夢見て必死に働くという。表彰結婚によって子どもが生まれた場合、その子どもは生まれながらにして囚人となる。

表彰結婚で子どもが生まれても親が愛情を注ぐことはなく、子どもも親に対して特別な感情はないという。手記のタイトルにもなっている通りだ。しかし、この点はあまり強調しすぎると誤解が生じるようにも思う。申氏の母と兄は1996年に脱出を試みて捕まり、公開処刑されている。彼は最前列で母と兄の処刑を見なければならなかった。そのときの状況について、彼は以前のインタビュー記事では「母と兄が死ぬ姿を見た時も、悔しい、悲しいという感情はなかった」と証言していた。今回の手記では同じ公開処刑について「どうにも凝視するのが辛かった。自分の母が絞首刑に、兄が銃殺刑にかけられようとしているのだ。平気で見ていられる家族がいるだろうか」と書かれており、ややニュアンスが違っている。北朝鮮を脱出してから日が経つにつれ、少しずつ人間性を回復しているのだろう。まったく「愛を知らない」人間が育ったわけではない。完全統制区域は人間性を心の奥底に沈めなければ生きていけない場所だったのだ。

表彰結婚制度は、北朝鮮の収容所がナチスやソ連の収容所とも本質的に違っていることを示している。囚人同士が結婚する制度など前代未聞であり、その子どもは生まれながらにして囚人となるというのも近代社会の原則と相容れない。囚人たちは一種の奴隷階級だと考えたほうが分かりやすい。

申氏の手記は、完全統制区域の異様で苛酷な実態を明らかにしているだけではない。一筋の希望を見せてくれてもいる。

2004年、彼が働いていた工場に新しい囚人が配置された。平壌で官僚として働いていた朴勇哲氏で、申氏と親しくなると「北朝鮮社会は、罪のない人を捕まえるところだ」「UN(国連)でも問題にしていて、世界中が関心をもっているから、早いうちに管理所(収容所)はなくなるだろう」と語ったという。この人物の影響で申氏は脱出を考えるようになり、二人で脱出を試みた。朴氏は鉄条網を抜けることができなかったが、申氏は成功し、朴氏に教えられた通り中国へと向かった。北朝鮮の人権状況を批判する国際社会の声が完全統制区域の中にも届き、人の心を変えたということだ。金正日政権が国際社会の声を無視しつづけているとしても、人権状況を批判することは無駄ではない。

今週の北朝鮮(2008/03/15-2008/03/21)
投稿者 kazhik : 17:50 | トラックバック

2008年3月16日

変わらない人権状況、変わる政治状況

3月11日にアメリカの国務省が2007年度の人権報告書を発表した。先週の記事で取り上げた部分は結局以下の通りになった。

抑圧的な北朝鮮の体制は市民の生活のほとんど全ての側面を統制しつづけており、言論・報道・集会・結社の自由を否定し、移動の自由と労働者の権利を制限している。超法規的な殺人・失踪・恣意的拘束の報告が、政治囚についてのものも含め、孤立した国から流れ出しつづけている。何人かの強制送還された難民たちは厳しい処罰や拷問を受けたと言われた。公開処刑の報道も出続けている。

「抑圧的な」という表現はそのまま。「孤立した国」は、"the isolated country"から"the insular country"に変わり、国際的に孤立しているというニュアンスがわずかに弱まった。公開処刑の報道については「増加した」から「出続けている」へと変わった。対立点について足して二で割る妥協が成立したようだ。

今回の報道により、六ヵ国協議が進展すれば北朝鮮の人権状況に対する批判は弱まる、という可能性が改めて示された。人権報告書の記述がほとんど変わらなくても、記述された問題を政権が取り上げなくなってしまうかもしれない。それでは金正日政権が批判を圧力と感じることもなくなる。

金正日政権はこの報告書にまだ反応していない。しかし国連人権理事会で韓国が北朝鮮に対して人権状況を改善するよう求めたことに対しては汚い悪罵を返している。同じ理事会でのヴィティット・ムンタボン北朝鮮人権特別報告官による報告に対しても同様に反応した。人権状況をまったく改善していないことを自白したようなものだ。ブッシュ政権も六ヵ国協議の状況と関わりなく北朝鮮の人権状況を批判しつづけるべきだ。

今週の北朝鮮(2008/03/08-2008/03/14)
投稿者 kazhik : 12:09 | トラックバック

2008年3月 9日

韓米の弱々しい政策協調

ブッシュ政権は北朝鮮の人権状況に対する批判を控えるようになってきたようだ。Washington Postの記事によれば、東アジア太平洋局のグリン・デービス副次官補が民主主義人権労働局のエリカ・バークス・ラグルス副次官補にメールを送り、北朝鮮に関する報告書の表現を修正するよう求めた。

抑圧的な北朝鮮の体制は市民の生活のほとんど全ての側面を統制しつづけており、言論・報道・集会・結社の自由を否定し、移動の自由と労働者の権利を制限している。超法規的な殺人・失踪・恣意的拘束の報告が、政治囚についてのものも含め、孤立した国から流れ出しつづけている。何人かの強制送還された難民たちは厳しい処罰や拷問を受けたと言われた。公開処刑の報道は増加した。

この元の記述から「抑圧的な」「孤立した国」という表現が削除され、公開処刑の報道は「増加した」から「表面化しつづけている」に変わったという。Washington Postの記者はこれを「叩頭」と表現している。

一方、李明博政権は人権を「人類普遍の価値」とし、北朝鮮に人権状況の改善を求める姿勢を示している。「南北関係の特殊な状況」を理由にして国連の北朝鮮人権決議にも賛成しなかった盧武鉉政権とはだいぶ違っている。

この状況は、いままで食い違っていたアメリカと韓国の政策がそれぞれ逆方向に変わり、協調の可能性が広がった、と評価することも可能だ。しかし変わる前のアメリカも北朝鮮の人権問題を最優先課題と位置づけていたわけではないし、李明博の「非核・開放・3000」構想にも人権という文字はない。協調が成立しても大きな動きにはなりそうもない。むしろ、ブッシュ政権は李明博政権の負担を減らすために人権問題の比重を下げてきているのではないか、と疑うことさえできる。今後、北朝鮮の人権状況に対するアメリカや韓国の批判は形だけのものとなり、脱北者の受け入れや経済制裁などの圧力を伴わなくなるのではないか。

今週の北朝鮮(2008/03/01-2008/03/07)
投稿者 kazhik : 16:22 | トラックバック

2008年3月 2日

中国政府がUNHCRに脱北者の亡命申請受付を中止するよう要請?

聯合ニュースの記事によれば、中国政府が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に対し、北京オリンピックが終わるまで脱北者の亡命申請を受け付けないよう求めたという。UNHCRは同意したらしい、という推測が語られている。

元はVoice of America(VOA)が「消息筋」の情報として報じたものだ。中国政府もUNHCRもこの件について何も発表していない。VOAのサイトを探しても元の記事は見つからなかったので、あるいは誤報かもしれない。しかし、もし事実だとしたら重大なことだ。

オリンピックの期間、北京には世界各国からマスコミが集まる。脱北者の駆け込みなどがあれば普段より広く世界に伝えられることになる。中国政府の動きはそれを事前に防ごうとするものだ。しかし、オリンピックのために脱北者に忍耐を強いていいはずがない。UNHCRが中国政府の要求を受け入れたというのも到底信じがたい。

脱北者を支援する運動の中では、脱北者を強制送還している国でオリンピックが開催されること自体を批判する意見もあった。アテネオリンピックの際には現地でアピールが行われた。スポーツと脱北者の問題は関係ない、と思えたので私は同調できなかったのだが、中国政府が自ら脱北者とオリンピックを結びつけているのであれば話は全く違ってくる。そのようなオリンピックを素直に楽しむわけにはいかない。

今週の北朝鮮(2008/02/23-2008/02/29)
投稿者 kazhik : 19:52 | トラックバック