デイリーNKの記事「北にも個人雇用日雇い労働者拡大の模様」によれば、北朝鮮で日雇い労働が増えているそうだ。廃鉱になった金鉱に近隣の住民が入り込み、人を雇って採掘を行っている例、貿易商人の家を建てるのに左官として雇われた人の例、党幹部や新興成金の家で家事手伝いとして働く例などがあるという。
北朝鮮に市場経済が浸透してきていることはこれまで繰り返し報じられてきており、最近では政府が市場に対する統制を強めていることも伝えられている。しかしそのような報道は流通に関わるものがほとんどだった。そこで言う市場とは、都市の一角で商人たちが品物を並べ、住民が買いにくる、という「いちば」としての市場だ。そのような市場は、北朝鮮が資本主義化へと向かうかどうか、という観点からはあまり重要ではない。肝心なのは住民たちが商品を買う金がどこから出ているかだ。国有企業で働いて得た賃金で商品を買っているのであれば、どれほど「いちば」が盛んだとしても経済の根幹は国有企業だ。各人が持っている資産を切り売りして得た収入が元になっているのであれば、北朝鮮経済は過去の資産をすり減らしながら衰退していることになる。国有企業ではなく私企業に雇われ、その賃金によって生活する人が増えているのであれば、資本主義化が進んでいることになる。つまりデイリーNKの記事は資本主義化の端緒を伝えているわけだ。
といっても、挙げられている例のうち、左官や家事手伝いの例においては労働力ではなくサービスが売られているにすぎない。左官や家事手伝いの労働の成果は商品として売られるものではない。金鉱の例は、個人が人を雇って採掘を行い、採った金を売っているので、労働力の売買と言える。雇う側と雇われる側の関係は資本主義的な賃労働関係だ。しかし、この金鉱というのもしょせんは廃鉱であり、局地的な例にとどまる。したがって、北朝鮮の資本主義化がこの程度しか進んでいないとしたら、ほとんど進んでいないことになる。
それならなぜ北朝鮮政府は全力で市場を統制しようとしているのだろうか。市場経済と資本主義経済が区別できていないから、というのが一番簡単な答えだろう。市場の拡大が資本主義の拡大だとしたら、それを放置することは体制の崩壊につながる。しかし単なる認識の誤りとも言えない。配給ではなく市場での売買によって消費財を得るのが一般的になれば、人々は国家の力ではなく自らの力によって生活していると感じるようになる。その自立心は権力者にとって望ましくないものだ。
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