赤星マルクス研究会という団体に属する横井邦彦氏が「私は蓮池薫氏に拉致されかけたことがある」と発言し、話題になっている。
横井氏が昨年11月に労働者のこだまというブログで書いたのが発端だが、週刊現代が12月25日発売号で取り上げたことで広く知られるようになった。反響が大きかったためか、彼はブログから問題の記事を削除。1月に入って新たに横井邦彦の雑記帳というブログを立ち上げ、あらためて当時の状況を詳しく書いている。簡単にまとめればこうだ。
週刊現代の記事に関しては蓮池薫さんが抗議文を出した。「私ども家族会の生活と自立のための努力に多大な支障をきたすものであり、拉致問題の解決にも悪影響を及ぼすもの」だという。
一方、特定失踪者問題調査会の荒木和博氏は、一般論として「拉致被害者が日本に戻る可能性はあるか、と問われれば、『ある』と答えざるを得ません」「蓮池氏には政府(対策本部事務局)を盾にするのではなく、やはり本人がマスコミの前に出て可能な限り真実を明らかにする必要があるのではないでしょうか」とコメントしている。さらに2日後には蓮池透さんの著書『奪還 第二章』からこんな記述を引用している。
「弟夫婦への警察の事情聴取は結局、2004年秋に弟の希望通り実家で行われました。その時、驚くような質問を受けたそうです。『北朝鮮のパスポートを所有していますね。日本国内へ工作活動に来たのはいつですか?誰にも言いませんから』『北朝鮮で日本語教育というある意味でスパイ養成に加担したわけですが、どういうお気持ちで?』弟は、『日本国内になんて、入れるわけがないだろう。日本語教育は、われわれが生き残るためにやったまでなのに…あなた方は助けに来てくれたのか?』と激怒したそうです。状況を聞いた私は開いた口が塞がりませんでした」
荒木氏は、警察は根拠もなくこんな質問をしたのではなく「捜査上の秘密などという言葉で隠してはならない重要なことを知っていて、そして隠しているのではないか」、と推測している。間接的に蓮池さんを疑っていることになる。意外な冷たさに驚かざるをえない。
警察の質問は八尾恵のケースを念頭に置いたものだと考えれば不自然ではない。八尾はよど号グループの一員として有本恵子さんらの拉致に関与する一方、日本国内でも工作活動を行っていた。蓮池さんは工作機関で働いていたことを自ら語っているのだから、八尾恵と似たような活動をしたことがあるのではないか、と考えるのはそれほどおかしくない。つまり、「捜査上の秘密などという言葉で隠してはならない重要なこと」がなくても十分に質問は成り立つ。
荒木氏は「横井氏の証言に妄想と思われるようなところはありません」と評価しているのだが、妄想でないとしても創作としか思えない点はいくつかある。第一に、蓮池さんが自ら拉致被害者であることを明かしたとは到底信じられない。寺越武志さんや金英男さんのように、拉致されても「遭難したところを助けられた」などと説明するのが普通だ。第二に、1986年の時点で金正日が田宮高麿の指導力を問題にしていたというのもおかしい。田宮は1995年に死ぬまでリーダーでありつづけた。金正日に指導力を疑われながら10年も地位を保つことがはたして可能だろうか。田宮は金正日に粛清された、という高沢皓司氏の説から横井氏が創作した話なのではないか。第三に、あなたはどうやって来たのか、という横井氏の質問に対し、蓮池さんが「漁船のような船で沿岸まで来て、そこでゴムボートのような船に乗り換えてやってきました」と答えたというのも、工作船について最近得た知識から創作した話のように思える。よど号グループの柴田泰弘は偽造パスポートを使って日本に入り、工作活動を行っていた。拉致被害者も同じ手段を使うのが自然なのではないか。
荒木氏が指摘する通り、拉致被害者が日本で工作活動を行っていた可能性はたしかにある。よど号グループのメンバーが日本で工作活動を行っていた例はあるし、拉致被害者は帰国後の会見で工作機関で働いていたことを明かしている。横井氏が証言するようなケースも一応ありうると言っていい。しかし、それは横井氏がありそうなストーリーを創作したからだ、とも考えられる。
その意味でカギになるのは、横井氏の証言に出てくる「骨品」という言葉だ。蓮池さんは出身成分と同じ意味でこの言葉を使ったそうだ。また、蓮池さんは北朝鮮で「金星政治軍事大学」と「烽火大学」を出たと語ったという。この二点は脱北者に取材すれば検証することができるだろう。それによって横井証言全体の信憑性を判定することもできる。
ただ、仮に横井氏の証言が事実だと分かっても蓮池さんが拉致被害者から拉致未遂犯へと変わるわけではない。強いられてやっただけのことだ。この証言は単純に忘れるのが最善かもしれない。
アフガン・イラク・北朝鮮と日本からのトラックバック(2007年1月 9日 23:07)
このエントリーのトラックバックURL:
http://asiavoice.net/mt/mt-tb.cgi/224