朝鮮民主主義研究センター

2005年1月25日

どん底からの脱出は成長とは言えない

(書評:河信基『金正日の後継者は「在日」の息子』)

韓国銀行の統計(PDF)によれば、北朝鮮経済の成長率は1999年6.2パーセント、2000年1.3パーセント、2001年3.7パーセント、2002年1.2パーセント、2003年1.8パーセント。5年連続のプラス成長だ。2004年の穀物生産量は423.5万トンで、過去10年間で最高となった

このような状況の中、河信基氏の『金正日の後継者は「在日」の息子』は、2002年7月の「経済管理改善措置」によって加速された北朝鮮の市場経済化を称揚し、高度成長の可能性まで指摘してみせる。

北朝鮮の市場は2004年7月時点で平壌に40箇所、地方に300箇所あり、さらに増え続けて北朝鮮経済の新動脈を形成しつつあるという。市場にはあらゆるものがあふれている。河氏は新興成金が登場している状況すら肯定的に描き出す。韓国からの支援米が「人気のブランドとなって高値で取り引き」されている、1万円から2万円の化粧品が飛ぶように売れている、「市場経済とは無縁の平等社会に生きてきた人々が、売り手と買い手に分かれて貨幣経済を日々学習しているのが北朝鮮の新しい姿である」(135ページ)。

2003年の韓国との交易は12.9パーセント増の7億2000万ドル、中国との交易は38.7パーセント増の10億2355万ドル。両者で北朝鮮の対外交易の7割を占める。成長を続けるこの二つの国との関係が北朝鮮経済に良い影響をもたらしている。河氏によれば、金正日は2001年1月の訪中によって改革・開放への転換を決意した。2004年4月の訪中の際には、中国は経済援助を拡大するとともに中国民間企業の投資受け入れを認めさせた。中国製品は北朝鮮の市場を席巻し、北朝鮮は中国の植民地になってしまうのではないか、という懸念すら聞かれるほどだという。

河氏はITが北朝鮮経済浮上の切り札になりうると見る。北朝鮮はすでに光ファイバーケーブルが全国にはりめぐらされており、基幹網の整備は日米韓に劣らない。金正男を委員長とする朝鮮コンピューターセンターを中心としてソフトウェアの開発も盛んだという。人件費の安い北朝鮮の技術者を使ってソフトウェアを開発し、利益を挙げている韓国企業が紹介されている。

実に景気がいい話だ。しかし、このような分析には長谷川慶太郎の日本経済論とよく似た軽薄さを感じてしまう。

まず、5年連続のプラス成長という数字に対しては、その前にはマイナス成長の9年間があったということ、また、プラス成長の5年のうち3年は1パーセント台の成長にすぎないということを指摘しなければならない。やっと最悪の状況から抜け出したが低迷を続けている、というのが適切な表現だろう。高度成長の可能性にまで言及する河氏も「現在の北朝鮮経済は1970年代前半の水準とほぼ同等と見られる」「1990年代にソ連・東欧社会主義経済圏を失い後退を続けてきた経済危機から、完全には脱し切れていない」(150ページ)と認めている。瓦解する前の水準を回復することさえままならないのに「高度成長」を語ることはできない。

新興成金の登場を肯定的に捉えることにも強い違和感を覚える。経済が低迷したままなのに成金が増えているということは、それ以外の大多数はさらに窮乏化しているということだ。以前は国定で1キロ46ウォンだったコメの価格は、急激なインフレで昨年8月には1キロ420ウォンへとはねあがっている。食糧不足の状況で価格を自由化すればそうなるのは当然と言える。しかし河氏は、コメの価格が一般市民の手の届かない水準に達したことより、高騰した価格でも買える層がいることに注目する。河氏は少数の新興成金の視点で北朝鮮経済を見ているのだ。

北朝鮮のIT化に希望を托すのも根拠が薄い。光ファイバーケーブルがはりめぐらされていても、使われなければ意味がない。電力供給が安定せず、白物家電すら十分に普及していない北朝鮮では、一般市民がパソコンを使えるようになるのは遠い先の話だろう。一部のエリート層が使うだけならソフトウェア市場は成立せず、したがってソフトウェア産業も発展しない。韓国企業に安い労働力を供給するだけでは経済発展には結びつかない。韓国政府は「北朝鮮のIT産業は外国の先端先進技術と資本の導入など国際社会の助けが必須という点で核問題解決など国際社会との関係が改善にならない限り高い成果を期待することは難しいことと見込まれる」と冷静に評価している

北朝鮮経済に可能性がまったくないわけではない。中国や韓国との関係強化によって成長へと向かう可能性はある。中国や韓国の経済発展はアメリカや日本との関係によって可能になったものであり、同じことが北朝鮮に関して起こらないとは断言できない。しかし、中国からの投資を期待して2002年にスタートした新義州経済特区は、初代長官に任命された楊斌が中国で逮捕されたことで最初からつまづいた。韓国企業が進出する開城工業団地は昨年12月に生産が始まったばかりで、成果を論じるのはまだ早い。南北関係に依存したプロジェクトで、政治状況が変われば頓挫するおそれがある以上、積極的な投資は見込めないのではないか。北朝鮮の外資導入には1984年の合営法や1991年の羅津・先鋒自由経済貿易地帯のような失敗の歴史がある。体制が基本的に変わっていないのだから、同じ失敗が繰り返されるだろうと予想するのが理にかなっている。現時点で楽観論を語るのは難しい。

金正日の後継者については、河氏は金正哲による世襲を予想している。世襲を「民主主義的政権交代という選択肢が現実的にありえない北朝鮮において、権力の空白乃至は権力闘争をめぐる政治的不安定化を避けるための"必要悪"」(24ページ)として容認する。日本のメディアによく出てくる御用学者とよく似た「現実的な」発想だ。この発想が北朝鮮経済の厳しい現実を直視できなくさせているのだろう。

出版:講談社+α新書、2004年12月
推薦度:★★★

投稿者 kazhik : 2005年1月25日 07:14
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私は、かつての日記で北朝鮮経済について書いたことがあります。韓国銀行によると、2003年の北朝鮮の一人あたりの名目GNIは818ドルで、ヴェトナムやインドネシアよりもはるかに上で、... [続きを読む]

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