1月25日、「救う会全国協議会ニュース」に「大学入試センター『朝鮮人強制連行』出題に関する声明」が掲載された。四つの選択肢から正しいものを選ばせる問題で、「第二次世界大戦中、日本への強制連行が行われた」という選択肢が正解とされたことに抗議するものだ。北朝鮮は数百万人単位の強制連行を主張しており、日本政府はそれを否定している、「拉致被害者と家族の全員奪還が国家的課題となっているいま、なぜ、入試センターはわざわざ北朝鮮の『根拠のない主張』に通じる出題をしたのか、強い疑問を禁じ得ない」とのことだ。署名は「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長 佐藤勝巳」となっている。
試験問題は「強制連行が行われた」という事実のみを問題としているのに対し、佐藤は「数百万」という数を否定する日本政府の見解を持ち出している。仮に数百万という数字が誤りで、数百が正しいとしても、「強制連行が行われた」という事実認識が間違っていたことにはならない。佐藤は昨年9月の国会で川口外相が「戦時中に朝鮮半島から渡航してきた労働者の大半は自由意思だったという答弁をした」と書いているが、では「大半」以外の者はどうだったというのか。
そもそも、当時における「自由意思」は現在の日本におけるそれとは大きく異なるものだ。言論の自由をはじめとする人権が厳しく統制されている状況においては、「自由意思」といっても本心からの選択だったとは言えない。平壌に住むキム・ヘギョンさんやジェンキンズさんががインタビューで「自由に」語ったとしても、それが本心かどうか分からないのと同じである。
北朝鮮の国家機関が日本人を拉致したことは、日本政府がかつて朝鮮人を強制連行したことによって相殺されるものではない。強制連行の事実を否定しなければ拉致を非難できないわけではない。佐藤はまったく関係のない問題を拉致問題に関連づけようとしている。これは拉致問題の政治的利用と言う以外ない。
拉致問題は人権問題であり、ぜひとも緊急に解決されるべきだ。被害者は救出され、加害者は処罰されるべきである。「救う会」は拉致被害者の救出を目的としている。そう考えて私は「救う会」への支持を何度も表明してきた。「救う会」の側にも、支持者の国家主義的、排外主義的傾向を抑え、運動を幅広く展開しようとする姿勢があった。集会では「君が代」ではなく「ふるさと」が唱われ、ゲストとして韓国の拉致被害者家族が呼ばれたりしていた。しかし今回の声明は、現在の「救う会」の運動方針が従来とは異なっていることをハッキリと示している。
北朝鮮に対する経済制裁を求める署名を集めはじめた頃から既にその傾向は現れていた。経済制裁は、効果があるとすれば北朝鮮の民衆を真っ先に苦境においやることになる。拉致問題の解決にどのようにつながるのかもはっきりしない。その後「救う会」が取り組んだ万景峰号の入港阻止運動も、万景峰号を利用する在日朝鮮人に対するちょっとした嫌がらせに終わった。拉致被害者を置き去りにして強硬姿勢だけを空回りさせるようになってきていた。そこに今回の声明である。「救う会」は拉致問題を利用して日本人と朝鮮人の民族対立を煽るだけになった、と判断する以外ない。私はもはや「救う会」を支持することはできない。
「救う会」とは関係なく、拉致問題は解決されるべきである。拉致被害者の救出へ向け、「救う会」に代わる新しい運動が生まれることを望みたい。