朝鮮民主主義研究センター

2004年7月17日

NHK報道局「よど号と拉致」取材班『よど号と拉致』

2003年5月31日、6月1日に放送されたNHKスペシャルの取材過程を記す。

よど号グループによる拉致事件に関しては、有本恵子さんを拉致した八尾恵の『謝罪します』やグループのメンバーと親しかった高沢皓司の『宿命』がある。前者は当事者による発言なので事実を歪めているおそれがあり、後者は情報源がはっきりしないので信憑性に欠ける面があった。しかし本書は当事者性のないジャーナリストによるもので、取材の成果を取材過程の成功談や失敗談とともに書いており、信頼性が高い。

興味深い事実がいくつか明らかにされている。1980年代後半、八尾恵は海上自衛隊の横須賀基地の近くでスナックを経営し、海上自衛隊員の獲得を目的とする工作活動を行っていた。店に来た隊員から横須賀基地の弾薬庫について聞きだそうとしたという。弾薬庫の情報を得ようとするのは通常の左翼の発想ではない。よど号グループの活動が北朝鮮の国家機関の指示に基づくものだったことを強く示唆する事実だ。

1975年、北朝鮮は旧ユーゴスラビアのザグレブに総領事館を開設した。取材班はその際の朝鮮労働党とユーゴ共産党の秘密交渉の記録を発見した。北朝鮮側は「南北朝鮮統一に賛同する北朝鮮シンパの韓国人をユーゴ国内に送り込み、南北統一に向けたプロパガンダを行いたい。これらの韓国人は、韓国在住の者であれ、外国在住の者であれ非合法の形でユーゴに来るので、ユーゴへの出入国に際して、パスポートに何らの証印も押さないようにしてほしい」と要請している。ユーゴ側は要請を大筋で受け入れた。その後、1977年にザグレブで韓国人ピアニストのペク・コンウさん対する拉致未遂事件が起こり、ユーゴ共産党幹部は北朝鮮大使に強く抗議した。北朝鮮大使は「拉致を企てたのは、ピョンヤンから来た特殊グループだ。グループの人間はすでに処罰されていて、その職を解任されている。今後このような事件が繰り返されることはない」と応えた。しかし実際には、1983年にザグレブを拠点として有本恵子さんの拉致が実行された。一部の不心得者がやったこと、で済むものではまったくない。

気になる事実も紹介されている。よど号グループの魚本民子が1980年の3月から8月にかけて名古屋の会社で働いていて、退職直後にその会社に「私の息子が、魚本さんと一緒に海外旅行に行ったらしいが、未だに帰ってこない」という興奮した電話があったというのだ。まだ知られていない拉致事件があるのかもしれない。

2002年9月の日朝首脳会談以後、日本のメディアが拉致被害者ばかり追いかけていることに私は不満だった。被害者のプライバシーを侵害するのではなく、加害者を徹底追及すべきだと考えてきた。本書はまさに私の不満を解消してくれるものだ。取材班に拍手を送りたい。

出版:NHK出版、2004年6月
推薦度:★★★★★

投稿者 kazhik : 2004年7月17日 23:15
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