朝鮮民主主義研究センター

2008年7月20日

金剛山観光客を北朝鮮兵士が射殺

7月11日早朝、金剛山を観光中の韓国人パク・ワンジャさんが北朝鮮の兵士に銃撃されて死亡した。

散歩中に観光客のための区域を越えて軍の警戒区域に入り、撃たれたようだ。北朝鮮側は「南朝鮮観光客が観光区域を越えて不法にフェンス外側のわが方軍事統制区域内にまで入ったことにその原因がある」と居直り、韓国側に対して謝罪を要求している。また、警告射撃して静止を求めたが応じなかったので射殺した、と説明している。

他の観光客は警告射撃はなかったと証言している。パク・ワンジャさんは二発撃たれており、銃声も二発だったということだ。北朝鮮側の居直りに韓国の世論は反発している。金剛山観光は中止された。今後の北朝鮮側の対応によっては開城観光も中止されるかもしれない。

パク・ワンジャさんが宿泊していた軍の警戒区域までは1キロ程度で、散歩で行ける距離だ。警戒区域の前には高さ2メートルのフェンスがあったが、海側は砂が盛られているだけで、簡単に越えることができる。観光客がちょっと迷い込んだだけで射殺し、しかも相手が悪いと主張する北朝鮮側の対応は非常識きわまるものだ。

金剛山観光を主催している現代峨山も責任を免れることはできないだろう。フェンスをしっかりと設置していれば、また観光客に危険性を十分説明していれば、こんなことにはならなかった。南北融和の10年による平和ボケが引き起こした事件のようにも感じる。

韓国政府は今のところ金剛山観光の中止を発表しただけだ。事件の重大さを理解していない対応と言うしかない。すべての南北協力事業を中止し、制裁措置を取り、六ヶ国協議の参加国に同調を呼びかけるぐらいの姿勢があってもいいはずだ。

いずれにせよ、今の状況が続くかぎりは誰も北朝鮮を観光する気にならないだろう。南北融和の夢は破れ、北朝鮮の現実がはっきりと示された。南北関係は今後ますます悪化する。それが六ヶ国協議に影響を及ぼすのは時間の問題だ。

今週の北朝鮮(2008/07/12-2008/07/18)

2008年7月12日

利権あさりを呼びかける新興成金の代弁者

六ヶ国協議が進展し、日本でも自民党内で北朝鮮政策をめぐる対立が起こるようになってきた。経済制裁見直し論に対し、安倍晋三が6月12日に「百害あって一利なし」と批判すると、「日朝国交正常化推進議員連盟」会長の山崎拓が「幼稚な考えだ」とコメント。安倍はさらに「百害あって利権あり」と発言をエスカレートさせた。7月7日には加藤紘一が2002年の拉致被害者の帰国に触れ、一時帰国のはずだったのに返さなかったために日朝交渉が停滞した、という認識を示した

この対立を見ていると、小泉政権の北朝鮮政策はとてもバランスがよかったのではないかと思えてくる。日朝国交正常化の推進と拉致問題の解決という二つの課題を一応は両立させていた。前者の成果は平壌宣言、後者の成果は拉致被害者の帰還だ。次の安倍政権は拉致問題一辺倒で、ただ経済制裁を強化しただけで何の成果も出せずに終わった。そして今の政権は拉致被害者切り捨てへと向かおうとしている。おそらく六ヶ国協議に関連して対北朝鮮援助を再開する程度で終わるだろう。

北朝鮮の新興成金を代弁している河信基氏は、最近ブログで「北朝鮮の地下資源(230兆円〜370兆円)を逃すな」と呼びかけている。日朝関係を正常化させ、北朝鮮に眠る膨大なレアメタルの開発に乗り出せ、という内容だ。どうやら新興成金を買弁資本家へと昇格させたいらしい。

北朝鮮のレアメタルに目をつけたのは彼が最初ではない。外務省で北朝鮮外交を担当した経験を持つ原田武夫氏が数年前の著書で北朝鮮のレアメタルに注目している。日本が朝鮮半島を支配していた時代に戻りたいかのような主張だったが、北朝鮮側を代弁しながら同じことを語る人間もちゃんといるわけだ。世の中うまくできているものだと感心するしかない。

 日朝ピョンヤン宣言に明記してある通り、対北朝鮮経済協力の本質は賠償であり、北朝鮮国民の過去の傷を癒し、生活向上に資するものでなくてはならない。このことは基本的姿勢や哲学など総論としては無論、北朝鮮市民と個別的、具体的に接することになる各論でも、その都度問われるであろう。

 そのことを踏まえながら同時に、カネさえあれば何でも手に入る社会へと急変貌している北朝鮮の実情に即したきめ細かな協力方式が求められよう。
 理想的なのは、北朝鮮の産業育成や雇用創出につなげることである。北朝鮮当局も、外国企業との合弁をベースにした二次、三次的加工品の輸出拡大と貿易多角化を政策目標に掲げている。

この河信基氏の主張で重要なのは後半だけで、前半は飾りでしかない。彼にとっては賠償などどうでもよく、「カネさえあれば何でも手に入る社会」に順応した人間、つまり何でも手に入るカネを持っている新興成金を代弁することだけが課題なのだ。日本の経済協力資金がこの階層に流れ込めば彼は満足なのだ。「百害あって利権あり」との言葉は、元首相の言葉としては著しく品性が欠けたものだったが、河信基氏に向けられていれば全く適切だっただろう。

今週の北朝鮮(2008/07/05-2008/07/11)

2008年7月 6日

北朝鮮の未来についての五つのシナリオ

アンドレイ・ランコフ氏が北朝鮮の未来について四つのシナリオを検討している。第一は中国式市場改革、第二は吸収統一、第三は親中政権の樹立、第四は長期的な混乱だ。彼によれば、北朝鮮の政権が第一のシナリオを選択した場合、その結果は「高度経済成長よりも政治の混乱と政権の崩壊」。第二のシナリオは「分断の否定的な結果を一番完璧かつ早く乗り越える」。第三のシナリオは北朝鮮経済を改善するかもしれないが、分断を永久化し、民主化を遅らせる。第四のシナリオは結局は吸収統一か親中政権に行き着く。

このうち、中国式市場改革と親中政権の樹立は、とくに区別する必要はないように思う。現在の金正日政権が中国式の経済改革を実施することはまずない。開城や新義州が限定的に開放されたが、北朝鮮経済全体を改革するような措置はこれまで行われたことがないし、今後も行われないだろう。政権が変わらなければ改革は始まらない。つまり、親中政権として存続するか、韓国に吸収されるか、という二者択一になる。

親中政権の可能性については青木直人氏も何度か指摘したことがある。しかし、私にはこの可能性はほとんどないように感じる。中国式の改革開放政策は金日成や金正日がつくりあげてきたイデオロギーと両立しないからだ。北朝鮮の支配層にはトウ小平のような指導者はいないので、改革開放は現在の支配層の外からの押しつけになるだろう。つまり、改革開放は朝鮮民主主義人民共和国という体制の正統性を否定しなければ始まらないのだ。改革開放は吸収統一の第一段階でしかありえない。

ランコフ氏はもう一つのシナリオを検討するのを忘れたようだ。現状維持である。周辺国は誰も北朝鮮の体制崩壊を望んでいない。安倍政権や初期のブッシュ政権でさえせいぜい経済制裁どまりで、体制崩壊をめざす政策は取らなかった。李明博政権は10年続いた太陽政策を安楽死させつつあるが、それに代わって朝鮮半島の情勢を決める政策を持っているわけではない。金正日が生きているかぎり、あと10年ほどは現状のまま、というのが最もありうるシナリオだ。

ランコフ氏は吸収統一へ向かう道として次のような可能性を指摘している。

1990年代から北朝鮮で政権の統制力が弱まってきている。韓国を含めた外部世界の情報が北朝鮮の内部で全国的に広がり、政権に対する恐怖心は徐々に薄れている。その結果、規模が小さな事件が体制に打撃を与える潜在力が生じたのだ。東欧の民主化運動の歴史だけでなく世界の歴史を見れば、地方都市の市場やサッカー競技場から始まった小さな騷動が、基盤が弱まった体制に致命的な打撃を加える可能性があるということは明らかだ。

これが実際に起こり、東欧革命が北朝鮮で再現したらどんなによいか。たしかに現体制の力が弱まっているのは確かであり、市民が権力者に抗議する動きも伝えられるようになってきている。可能性はゼロではないと信じたい。

今週の北朝鮮(2008/06/28-2008/07/04)

2008年6月29日

北朝鮮が核申告書を提出、アメリカは45日以内にテロ支援国家指定を解除

6月26日、北朝鮮は六ヵ国協議の議長国である中国に核計画の申告書を提出した。アメリカのブッシュ大統領はこれに応じて北朝鮮にたいするテロ支援国家指定の解除と対敵通商法の適用終了の手続きに入った。27日には寧辺にあった原子炉の冷却塔が爆破され、各国のメディアがそれを伝えた。

昨年10月に成立した六ヵ国協議の合意文書では、核計画の申告は昨年末までに行われることになっていた。3ヶ月で行われる予定が実際には9ヶ月かかったことになる。北朝鮮の核問題については、合意が履行されたことだけに注目するのではなく、履行されるのが大幅に遅れたことにも注目する必要がある。あと半年しか任期がないブッシュ大統領には、次の段階の合意を成立させ、北朝鮮とともにそれを履行するだけの時間はない。せいぜいライス国務長官が訪朝し、クリントン政権末期のオルブライト国務長官と同様に歓迎される程度のことだ。

今回の動きの中で意外だったのは、デイリーNKの孫光柱編集局長が「北朝鮮の核の完全な廃棄に向かう実質的なきっかけになると同時に、米朝関係の改善の出発点になることを願いこれを歓迎する」というコメントを出したことだ。李明博政権の北朝鮮政策に関与している者として、あまり強く批判することもできなかったのだろう。しかし金正日体制を繰り返し批判してきた人が出すべきコメントとも思えない。残念だ。

今週の北朝鮮(2008/06/21-2008/06/27)

2008年6月21日

目前に迫ってきたテロ支援国家指定解除

6月18日、アメリカ国務省のライス長官がヘリテージ財団で「アメリカ合衆国のアジア政策」というタイトルの講演を行った。北朝鮮が近日中に核計画の申告書を提出すること、ブッシュ大統領はそれを受けて北朝鮮に対するテロ支援国家指定の解除と敵国通商法の適用停止の意向を議会に伝えることが明らかにされた。

講演は全体としてブッシュ政権のアジア政策を自賛するものだ。日本と韓国を共通の価値に基づく同盟者、ロシアと中国を共通の利害に基づく建設的パートナーと位置づけた上で、ブッシュ政権が各国との関係を改善してきたことを強調している。北朝鮮に関してもリビアの例を挙げながら「アメリカ合衆国には永遠の敵はいない」と語っている。

北朝鮮に関して語られたのは核問題ばかりだが、人権問題も少しだけ言及され、北朝鮮人権特使のレフコヴィッツを近いうちに東アジアに派遣することが明かされた。しかし拉致問題に関しては「日朝対話を手助けした」というだけで、テロ支援国家指定との関係は何も語られなかった。「アメリカ合衆国が人権問題で沈黙することはない」と宣言しているが、虚しい響きがある。テロの被害者が救われていないのに、なぜ核計画を申告しただけでテロ支援国家ではなくなるのか。

テロ支援国家指定の解除は目前に迫ってきた。しかし、以前にも述べてきたように、それは米朝友好の開始を意味するものではない。ライスも「我々は北朝鮮の体制の性質について何の幻想も持っていない」「北朝鮮を信頼せず、その行動を検証していく」と繰り返し強調している。この冷やかな関係が幸福な結末をもたらすことはありえない。クリントン政権時代の米朝枠組み合意が破綻したのと同じように、今回のプロセスもいつか必ず破綻する。ならず者国家の指導者とも無条件に会う、と言っているバラク・オバマがアメリカの大統領になったとしても変わらないだろう。

今週の北朝鮮(2008/06/14-2008/06/20)