朝鮮民主主義研究センター

2009年6月28日

対北朝鮮投資をめぐる状況の変化

North Korean Economy Watchで朝鮮総連が作成したというビデオが紹介されている。「共和国経済リポート EUとの合弁事業の現場から」というタイトルで、ピョンス製薬合弁会社のフェリックス・ アブト社長と北朝鮮貿易省の具本泰次官へのインタビューが中心になっている。EU企業が積極的に北朝鮮への投資を拡大していることを伝えようとするものだ。

内容からみてビデオが作成されたのは2008年の中頃、アメリカが北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除しようとしていた時期のものだ。経済制裁が解除されて一挙にビジネスチャンスが広がることへの期待がにじみ出ている。

フェリックス・ アブト社長が会長をつとめるEU企業協会も紹介されている。北朝鮮に進出している企業が構成する団体だ。ビデオに加盟企業の経営者が集まるシーンがある。金融制裁のときに資金を凍結されたテドン信用銀行のナイジェル・カーウィ総裁、EU企業からソフトウェア開発を受託している第一情報合弁会社のエルレソ・バーカー氏など、興味深いメンバーだ。公式サイトをみると現在はナイジェル・カーウィ氏がEU企業協会の会長になっているらしい。

現在はこのビデオが作成された時とは状況が異なってきている。二度目の核実験をきっかけに国連安保理が北朝鮮に対する経済制裁を決めた。北朝鮮は戦争の危機を煽ることに余念がない。この状況ではまともなビジネスなど不可能だ。North Korean Economy Watchがなぜ今このビデオを紹介したのか分からないが、昨年と現在はまったく状況が異なっていることを理解するにはよい材料かもしれない。

今週の北朝鮮(2009/06/20-2009/06/26)

2009年6月21日

名実ともに崩壊へと向かう六ヶ国協議

韓国の李明博大統領がアメリカを訪問し、16日にオバマ大統領と会談した。発表された「米韓同盟のための共同ビジョン」では、アメリカが韓国に「核の傘」を提供することが明記されている。「核の傘」が首脳会談の合意文書に明記されたのは今回がはじめて、ということだ。

この合意は韓国が主導したようだ。共同記者会見の記録を見ると、オバマは「李大統領と私は朝鮮半島の完全な非核化に対する共同の責任を改めて表明した」「我々は核兵器なき世界という目標を追求するグローバルな努力に責任を負っている」と、「核の傘」とは逆方向のことしか語っていない。李明博が「オバマ大統領は核の傘を含む拡張抑止力を通じて韓国の安全を保障することに対する固い責任を再確認した」とオバマが言いにくいことを代弁している。

いずれにせよ、この合意は2005年9月に成立した六ヶ国協議の共同声明に反している。共同声明は「アメリカ合衆国は、朝鮮半島において核兵器を有しないこと、及び、朝鮮民主主義人民共和国に対して核兵器又は通常兵器による攻撃又は侵略を行う意図を有しないことを確認した」「大韓民国は、その領域内において核兵器が存在しないことを確認するとともに、1992年の朝鮮半島の非核化に関する共同宣言に従って核兵器を受領せず、かつ、配備しないとの約束を再確認した」とうたっていた。「核の傘」が入り込む余地はない。

李明博はさらに六ヶ国協議から北朝鮮を除いた五ヶ国による協議を提案した。五ヶ国が集まって北朝鮮を復帰させる手段を協議するのだという。しかし、一方で朝鮮半島の非核化という目標をみずから投げ捨てておいて、他方で北朝鮮に対して非核化プロセスへの復帰を呼びかけるのは矛盾しているというしかない。これで六ヶ国協議の再開が実現する見込みはない。

とはいえ、北朝鮮を除く五ヶ国協議には大いに意味がある。話し合われるべきなのは核問題ではなく、人権問題と難民問題だ。今回の共同ビジョンには「我々は、朝鮮半島に持続的な平和をうちたて、自由な民主主義と市場経済の原則に基づく平和的な統一へと導くことによって、半島のすべての人々のためによりよい未来を建設することを目指す。北朝鮮の核兵器および現存する核プログラムの完全かつ検証可能な廃棄を実現し、北朝鮮の人々の基本的人権の尊重を促進するため、我々はともに働く」と宣言している。この宣言にしたがい、五ヶ国協議には脱北者の中から適切な人を選んで招待するべきだ。それは金正日体制に対して経済制裁よりはるかに強い圧力となるだろう。

今週の北朝鮮(2009/06/13-2009/06/19)

2009年6月14日

終わりへと向かう開城工業団地

6月11日、開城で韓国と北朝鮮の当局者による実務会談が行われた。北朝鮮側は、労働者の賃金を平均75ドルから平均300ドルへと引き上げること、および100万坪の土地賃貸料を31倍増の5億ドルに引き上げることを要求した。「北朝鮮の労働者が学歴・生産性・技術などすべての面でベトナム・中国の労働者より優秀なのに、開城はでむしろ労賃が安くなっている」と主張した

韓国企業からは「想像すらできない金額」「出て行けといったほうが、より素直な表現なのでは」という声が挙がっている。衣類メーカーのスキンネットは会談を待たずに開城からの撤退を決めた。社長はインタビューで「賃金面では有利だったが、問題は生産性だ。労働者一人当たりの生産量はソウル工場を100とした場合、北京は70で、開城は35だ。海外で新しく工場を建設した場合、1年ほど過ぎてやっとソウル工場の50%を超えるようになるが、開城ではそうならなかった」と説明した。「開城工業団地に入居した多くの企業は中国と同じぐらいの経営権が保障されれば北朝鮮が要求する水準まで賃金の引き上げをする意向もある」とも語っている。問題の核心は賃金や土地賃貸料の額ではなく、経営権の問題ということだ。

賃金や土地賃貸料について当局者同士が協議するというのはたしかに異常だ。北朝鮮はベトナムや中国と違って経済改革をまったく進めていないからそういうことになる。中国と同じぐらいの経営権が保障されれば、というスキンネットの社長の条件が今後満たされる可能性は全くない。

挑発と制裁の循環に入っている核問題とは異なり、開城の問題はまだ条件闘争の外見を保っている。韓国側が要求を呑めば開城工業団地は存続する。しかしこのように政治的に揺さぶられつづける中では安定した経営など不可能だ。韓国企業は遅かれ早かれ縮小・撤退の方向へ進むことになるだろう。

今週の北朝鮮(2009/06/06-2009/06/12)

2009年6月 7日

蓮池透さんの著書『拉致 左右の垣根を超えた闘いへ』

最近数年間、蓮池透さんの拉致問題に関する発言は家族会や救う会からかなり離れてきていた。昨年12月には日朝国交促進国民協会の集会、今年3月には日朝国交正常化推進議連の勉強会で講演し、経済制裁一辺倒の北朝鮮政策を見直すよう訴えた。

日本共産党に近い出版社から先月出た著書『拉致 左右の垣根を超えた闘いへ』もそういった立場からのものだ。2005年の著書『奪還 第二章』で示された方向性がさらに明確になっている。

透さんによれば、日本政府は拉致問題を解決へと向かわせるチャンスをこれまで4回つぶしている。

一回目は2002年9月17日。拉致被害者について北朝鮮から出された「5人生存・8人死亡」という結果を受け入れ、日朝国交正常化をめざす平壌宣言に署名してしまったことだ。死亡したとされる8人はもちろん、生存している5人をどうするかさえ決めずに帰ってきた。

二回目は5人の拉致被害者が帰国した時。日本政府は北朝鮮に対して「一時帰国」を約束してしまっていた。透さんを含めた5人の家族が説得した結果5人は北朝鮮に帰らないことを決めたため、日本政府は一時帰国の約束など存在しないと強弁することになった。

三回目は小泉首相が2004年に再訪朝した時。北朝鮮に残った拉致被害者の家族も日本に帰国できることになったのに、世論の強い圧力のために日朝国交正常化交渉は進展しなかった。拉致問題の解決とは何なのか曖昧なまま「拉致問題の解決なくして、国交正常化なし」という強硬な方針が固まってしまい、結果として何も進まなくなった。

四回目は横田めぐみさんの「遺骨」問題の時。北朝鮮が提供した遺骨を科学警察研究所と帝京大学が鑑定し、前者は鑑定不能、後者は横田めぐみさんとは別人のものと結論した。後者の鑑定結果は疑わしいものだったが、日本政府はその結果に依拠し、国交正常化交渉ではなく経済制裁へと向かった。

これらの問題の時期、透さんは家族会の事務局長だった。当時の判断には間違いもあった、と反省をこめて振り返っている。ただし、家族が感情で発言するのは自然だが政府がそれに同調するだけでは困る、とも述べている。

透さんの現在のスタンスは、日朝国交正常化交渉を進め、その中で拉致問題の解決を図っていくべきだ、というものだ。運動のレベルで言えば制裁一辺倒の右翼から対話一辺倒の左翼へと転じた形になっている。かつて行動をともにしていた荒木和博氏は透さんの最近の発言に対して冷淡だ。しかし拉致問題解決のためには「左右の垣根を超えた闘い」はたしかに必要だ。初期の救う会も「左右の垣根」を取り払う努力をして成功していた。もう一度原点に戻って運動が再構築されることを望みたい。

今週の北朝鮮(2009/05/30-2009/06/05)

2009年5月31日

チキンレースはそろそろ終わる

北朝鮮が二度目の核実験を行った。

北朝鮮が4月に人工衛星を打ち上げたのに対し、国連安保理は決議1718号に基づいて制裁を決めた。北朝鮮は国連安保理に謝罪を要求し、受け入れられない場合は核実験を行うと宣言した。今回の核実験はその宣言通りのものだ。

2006年10月に行われた最初の核実験の際、北朝鮮外務省の声明は「対話と協議を通じて朝鮮半島の非核化を実現しようとするわれわれの原則的な立場に変わりはない」と述べていた。しかし今回の声明は「敵対勢力によって6者会談とともに朝鮮半島非核化の念願は永遠に消え去り、情勢は戦争直前へと近づいている」という切迫した認識を示している。

核実験を受けて韓国政府は大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)への参加を宣言した。北朝鮮の祖国平和統一委員会はそれを非難して「朝鮮半島情勢と北南関係は戦争の危険ラインを超えることになった」「戦時に相応する実質的な行動措置で対応する」と声明した。同時に発表された朝鮮人民軍板門店代表部の声明も「これ以上停戦協定の拘束を受けない」「当面、朝鮮西海上境界線の北西方領海にある5島の法的地位と、その周辺水域で行動する船舶の航海の安全を保証できない」としている。西海で近いうちに限定的な軍事衝突があるかもしれない。

しかし韓国にも日本にも「情勢は戦争直前へと近づいている」という空気はない。北朝鮮だけが仰々しい言葉を使いながら崖っぷちに走り込んでいる一人チキンレースだ。北朝鮮が崖っぷちで立ち止まるまで冷やかに眺めているのが最善と言える。核実験までやってしまったので、今後北朝鮮ができることはそれほど多くない。オバマが対話の手をさしのべるのを待つことぐらいだ。

最初の核実験の際、私は「制裁でも対話でもなく、体制変更を」と書いた。言いたいことは今回も同じだ。金正日体制の存続を前提とする北朝鮮政策は転換しなければならない。

今週の北朝鮮(2009/05/23-2009/05/29)