朝鮮民主主義研究センター

2009年12月27日

北朝鮮はベトナムに倣うことができるか

デイリーNKのコラムで、韓国の国家安保戦略研究所のチョン・クァンミン氏が北朝鮮のデノミをベトナムが1985年に行ったデノミと比較している

ベトナムは1985年にデノミを実施し、その後1986年にドイモイ政策(改革・開放政策)を開始した。北朝鮮も同様の経緯を辿るのではないか、という点に関し、二つの見方があるという。第一の見方によれば、1985年のベトナムのデノミは反改革派によって実施されたもので、北朝鮮の今回のデノミも同様のものにすぎない。しかし第二の見方では、デノミが失敗すれば北朝鮮はベトナム式の改革へと向かうしかない。ベトナムのデノミは生産と配給の不足を解決するものではなかったためにインフレを抑えることができず、1986年に物価は487.3%上昇した。そこで1986年12月にドイモイ政策が採用されたということだ。

チョン・クァンミン氏は北朝鮮政府に対してベトナムを見習うべきだと説く。その一方、金正日が昨年9月に発表した「朝鮮民主主義人民共和国は不抜の威力をもつチュチェの社会主義国家である」を検討して北朝鮮が市場経済化へと向かうことはありえないことを指摘し、今回のデノミについても「過去志向的な保守的発想の産物」だという評価を下している

たしかにその通りで、現体制のイデオロギーと市場経済化は決して両立しない。では、デノミが経済を混乱に陥れたのち、上記の第二の見方の通りに保守派に代わって改革派が主導権を握り、改革・開放政策が採用される見込みはあるだろうか。

答えはもちろんNOだ。北朝鮮にはそもそも改革派など存在しない。これまで採用されてきたのは改革なき開放政策と呼ぶべきものだけで、核問題や人権問題で国際的に孤立しているため開放の相手も中国しかないというのが現状だ。デノミの失敗は政策の変更ではなく体制の変更をもたらす以外ない。

今週の北朝鮮(2009/12/19-2009/12/25)
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2009年12月23日

北朝鮮による朝鮮族中国人の拉致

姜哲煥氏が12月11日に行われたシンポジウム「北朝鮮による拉致の全体像と救出の方途」に参加し、北朝鮮による朝鮮族中国人の拉致について報告した。約200人が拉致されたという。

報告によれば、中国人拉致は日本人拉致や韓国人拉致とは異なり、工作機関ではなく国家保衛部によって行われている。無差別に一般市民を拉致するのではなく、脱北者の支援、北朝鮮の内部情報の提供、反政府勢力との強調などといった反北朝鮮的な活動を行った人を拉致した。

中国政府は北朝鮮政府に対して拉致被害者の送還を強く要求してはいない。人権問題に無関心であること、また被害者の大半が朝鮮族であることが理由だ。

姜哲煥氏は被害の具体的な例をいくつか挙げている。北朝鮮住民の脱北を助けた疑いで1998年に拉致された李ソングァン氏や、北朝鮮女性を雇って居酒屋を経営していて2005年に拉致された姜クッ氏などだ。

この姜哲煥氏の報告は拉致問題に新しい角度からアプローチするものだ。一番重要なのは、これは現在進行形の拉致だということだ。脱北者の急増や北朝鮮社会の流動化と関連しており、今後も継続して行われる可能性が高い。過去に拉致された被害者の帰還が問題の中心になっている日本人拉致や韓国人拉致とは異なり、再発防止が大きな課題となる。

朝鮮族中国人の社会には、ぜひこの問題に取り組んで大きく声を上げて欲しいものだ。

今週の北朝鮮(2009/12/12-2009/12/18)
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2009年12月15日

経済の論理を無視したデノミはすぐに破綻する

朝鮮新報の記事によれば、11月30日に実施されたデノミは「国家と社会の発展のために誠実に労働し、報酬を受ける市民を優待する仕組みになっている」のだという。「各地の工場や企業などでは従業員に対して、以前と同額の賃金を新通貨で支給する」とも伝えられている。つまり、労働者の賃金にはデノミは適用されないことになる。賃金が100倍になるのと同じだ。

これはあまりにも愚かな政策で、果たして報道が本当かどうか疑ってしまう。100倍の賃金を支払う工場や企業は、そのカネをいったいどこから持ってくるのか。採算性を考慮するならただちに生産物の価格を引き上げる以外ない。月間の生産コストが10万ウォンで、うち5万ウォンが労働者の賃金となっている企業があるとしよう。デノミの結果、賃金以外の生産コストは5万ウォンから500ウォンに変わるが、賃金は5万ウォンのままになる。生産コストは5万500ウォン。これを回収するためには生産物の価格はデノミ前の半分程度でなければならない。言い換えると、デノミ後に生産物の価格を50倍に引き上げなければならない。デノミの効果はほとんど否定されることになる。

労働者の生活を保障したいのであれば、賃金を引き上げるのではなく配給制度を復活させればよい。それが市場経済を敵視する現体制のイデオロギーにもかなっている。しかし配給制度を復活させて市場経済を無用とするだけの力がないため、子ども騙しの賃金バラマキ政策に訴えるしかなくなっている。そんな政策で騙される者がいるとしてもほんの数日のことだ。100倍の賃金を受け取った労働者は、その価値が激しいインフレで目減りしていくのを茫然と眺め、そして「国家と社会の発展のために誠実に労働し、報酬を受ける市民を優待する」政府に対する失望と反感を強めるだろう。

今週の北朝鮮(2009/12/05-2009/12/11)
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2009年12月 6日

北朝鮮でデノミ実施

北朝鮮で11月30日に通貨のデノミネーションが実施された。旧100ウォンを1ウォンとするものだ。旧通貨は12月6日まで一世帯あたり10万ウォンを上限として新通貨と交換できると発表された。上限はすぐに15万ウォンへと変更され、さらに10万ウォン・プラス・一人あたり5万ウォン(つまり4人世帯だと30万ウォン)へと変更された。上限を越える額は1000対1のレートで銀行に貯金できるという。

目的はインフレの抑制、と解説するメディアもあるが、デノミ自体にインフレを抑制する効果はない。インフレを抑制するためには通貨の価値を安定させなければならないのに、今回の措置は逆に通貨の価値を政府がみずから否定してしまった。一定額以上のウォンを紙クズにする措置が予告なしに実施されるのであれば、ウォンはババ抜きのババのようなものだ。今後多額のウォンを保持する者はいなくなるだろう。北朝鮮国内でもドル、ユーロ、元などの外貨による取引が好まれるようになる。それを予期したためか、平壌市当局は同時に外貨の使用を禁じる公告を出した。パニックが起こっていると報じられているのは当然だ。

最近の市場経済の発達で蓄財に成功した人たちは今回の措置で大きな損害を被ったに違いない。デノミの狙いもそこにあったのだろう。しかし溜め込まれたウォンを紙クズに変えることで得をする者はいない。ウォンに対する信用が暴落し、誰もウォンを受け取りたがらなくなってしまえば、国家の経済運営全体にもマイナスの影響を及ぼす。経済合理性をまったく無視した措置としか言いようがない。

市場を通じて蓄財した人たちが損害を被ったことで、そうでない人たちは喝采を送っているだろうか。格差の拡大に歯止めがかかったことを喜ぶ者もいるかもしれない。多くの人は新通貨と交換できる上限を越えるウォンは持っていないだろうから、さしあたり淡々と新通貨への移行を受け入れるだけかもしれない。しかし、市場で成功した人たちが損害を被れば市場経済は機能しなくなり、人々は配給制度に頼る以外なくなる。配給制度が正常化しないのであれば、生活の不満は直接に現体制へと向かうだろう。

今週の北朝鮮(2009/11/28-2009/12/04)
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2009年12月 1日

産業廃棄物による河川汚染を警告した研究者が粛清

デイリーNKの記事によれば、咸興化学工大の土質調査研究所の研究員が朝鮮労働党中央に手紙を送り、中国から受け入れた産業廃棄物で北朝鮮の河川が汚染されていることを指摘して対策を求めた。10月20日に党の崔泰福書記が大学を訪れた際のことだ。同書記は金正日に伝えることを約束したが、その後11月1日、党中央委員会は研究所を閉鎖して幹部と研究員を粛清した。党中央に手紙を送る場合は細胞の会議を開いて上級機関に送らなければならないのに、土質調査研究所の研究員たちはこの手続きを無視した、という理由からだ。研究員たちの行動は分派行為と見なされたという。

崔泰福は10月に中国を訪れて胡錦濤主席と会談している。中朝関係の緊張は望まない立場だろうから、中国の産業廃棄物による汚染問題は手に余ったのかもしれない。しかし真摯に問題を指摘した研究者たちを粛清してしまったら、今後彼に対して率直な報告を送る者はいなくなる。デイリーNKに情報を伝えた人物は「中央委員会が研究所の幹部や研究員を処罰することを決めたのは同様の行動が起こることを恐れたからだ」と推測している。たしかに、このように処罰されると分かったらどんな問題があろうと見て見ぬふりをするしかない。

中国の産業廃棄物で北朝鮮の河川が汚染されているとしても、中国が悪いということにはならない。北朝鮮に廃棄物を処理する適切な設備や制度が欠けていることが問題だ。問題提起者を粛清してしまった後、この問題を一体誰が解決するのだろうか。

今週の北朝鮮(2009/11/21-2009/11/27)
投稿者 kazhik : 13:22 | トラックバック (0)